38 秘密の花園(はなぞの)めぐり

月のイングリッシュ・ガーデンは薔薇の香りでいっぱい。妖精たちのざわめきがひょっとしたら草の陰から、聞こえてくるかもしれない。一年に一度だけ。自分だけのお気に入りのシークレット・ガーデンを見つけよう。
一年に一回、6月の、いち週末だけ、ひごろはプライベートやそこに住んでいる住民たちしか入れないお庭や公園が一般公開されます。これが London Garden Square Day と銘打ったイベントです。
今年は6月12日と13日の土・日でした。参加費用は£5。チケットと参加ガーデンの一覧小冊子を揃えたらさっそく、庭さがし。今年はじめて参加するいち友人とわたしは自宅付近から見てみることにしました。ロンドン市内、郊外も含め、今年は112もの庭が参加しています。ご近所をピックアップするとロンドン北部のハムステッド地区に二つ、リトル・ヴェニス地区に五つほどあります。二日間のうち、一日しか公開していないという庭もあり、スケジュールは無駄なくまわりたい。
こんなにたくさんの庭があるのに、一般人が見れるのは、一年にたった一度だけ、たったの二日間なのはなぜ?と思いましたが、そうすることによって、ひとつの庭に大勢のひとがおしかけるという混雑は避けられます。
実際、土曜日に最初に行ったハムステッドの庭は広いのに、ほとんどひとがいなくて、まさに「わたしの庭」状態で満足。たまに同じく小冊子を携えた中年のご夫婦などが見かけられ、あ、ご同輩、と思ってしまいます。この庭は、まわりを八軒ほどの大邸宅に囲まれ、丸い庭、というより公園のようです。
真中に芝生、まわりを背の高い木々や草花に囲まれていてバラ棚や草木の花壇もあります。この日は、ジモッチーなのか子供たちがナニー(子守り)らしきおねえちゃんに連れられてシャボン玉遊びをしていました。これものどか~。バラのアーチ棚に近いベンチに腰掛け、みどりの空気を吸いつつ、遊んでいる子供たちとシャボンの大きな玉が飛んで行く末を眺めての~んびり。天気は良いし、景色はいいし。ほんとに都会の楽園です。ふだんは鍵を持っている住人しか入れないサンクチュアリでしょうけれど、この日はゲートがぶっきらぼうに開け放たれ、どなたでも「ご自由にど~ぞ」。チケットを持っているかどうかチェックするようなひともいません。
知るひとぞ知る、秘密の散策です。
次にまわった庭も*ハムステッド・ヒースを見下ろす高台にあり、庭のみならず、邸宅がこれまたすごい。マナーハウスといったところ。部屋数いったい、いくつあるんやろ?豪邸の前の、よく手入れされた、天井のような木棚のある、庭なのです。ここもお金持ちが買うまでは荒れていたらしく、また嵐にも遭遇して、崩壊しているのを修復したらしいです。当時の写真と現在の比較。これだけのものを修復するのも(お金も労力も)たいへんやろなあ。
ここは草木の回廊のようになった「つる棚」のあるお庭で、高さがあるので、展望よし。大通りの車道を少し入ったくらいで、こんなに広大な、しかも優美な大邸宅と庭園があるなんてだれにわかるだろう?って感じです。
翌日は午前中、市内のメインイベント会場になっている**ベドフォード・スクエアへ。
スクエアの廻りは例によって住宅。***ジョージアン様式の建物が並ぶ四角い広場です。
中には大木がしげり、その木々の葉でうまく屋根のようにみどりの日陰を作っている。木漏れ日、というのがぴったしの太陽光線。協賛団体のマルキー(テント)に囲まれた中にハイドパークやグリーンパークで見られるような緑と白の縞のデッキチェアがおいてあります。よっこら腰掛け、しばし瞑想。
ああ、都会のオアシス。ハイドパークやらでは、このデッキチェアは有料で、すわるとどこからか警備員が来てお金をとるらしいんですが、ここはそういうこともなく(まあ、もうすでに払ってあるといえばそうだ。ビンボーったらしくてごめん)はじめてロンドンの公園でデッキチェアに座りました!ここでまた余談。南部海岸の、社交ダンスの大会が開かれるのでも有名なブラックプールでは、海岸のこのデッキチェアが古臭い、と取り払われようとしている、とか。夏らしくていいと思うんだけど。
スポンサーとしてイングリッシュ・ヘリティジという政府の機関がバックアップしているのです。そこのマルキーで説明を聞いたり。古い建物や道具などを修復する専門の機関もあったりして。彫刻や銅像などの物体だけでなく、景色(Landscape)まで、直すみたいです。あとは、なんと「ごみ箱」の専門機関まである。「いかに自然と一体化して、自然を破壊せず、ごみ処理をするか?」環境にやさしい「ごみ箱」、ごみ処理つくり。
自然と草花、木々、昆虫と人間が建造物と和合しているというのでしょうか。
こういうイベントを開催することによって、過去の歴史から振り返り、庭や古い建物を現在どう維持しているのか、将来どうしていくのか、今の子供たち、後の世代にもアピールするように運営されているのです。古くて汚いから、といって破壊して新しくするのでなく、歴代の価値あるものを大切に維持する。必要あらば修復する。リプロダクションといって、昔そのものに戻すことはできないが、雰囲気を損なうことなく材料から修正する。それは建物だけでなく、庭や公園、景色にまでも反映されます。
カールトン・テラスというロンドンのど真ん中、パルマルの南側、ジョージ四世のもと私宅のあったところの庭も。前後を政府関係の建物にはさまれている並びの中に、いままでは気が付かなかった、これまた、こんなところに、という庭が。木のテーブルと椅子がさりげなく置かれています。ステッコな白い壁の建物と青い空と緑の草花がこれまた調和していていい感じの空間。これぞイギリスの夏。都会のオアシス。
とりたちのさえずり声が、木と木の間にこだまし、上空の葉と葉のあいだを渡っていきます。地上で、かさかさかさ、という木の葉を踏むような軽い音がした、と思ったら小鳥が「ひょん、ひょん」という感じで飛び跳ねていく様子が目の端に入ってきました。ロンドンの公園でもリスなどが木の陰から降りてくるのを見ることはめずらしくないですが、これまたかわゆい。庭には必ずベンチがあって、新聞をゆっくり読んでいる女性、芝生に座ってなにかスケッチしているひと、芝生にそのままどてっとねっころがって昼ねしている男性などなど。
午後はまた地元近くに戻り、いち友人の住居近くであるメイダ・ヴェィル、リトル・ヴェニス地区の庭をいっしょにまわり、都会のなかでも自然とともにゆっくりと時間がすぎていることを実感しました。何もしないぜいたく、自然浴だけしているぜいたく、というか。ゆとりというか。いつまでも、ここにいたい。何もせず、ただいるだけ。ということが許されそうな時間の使い方です。
以前にイギリス人のいち家庭には必ずひとつアンティークものがある、と書きましたが、今回は「イギリス人ひとりにつき、必ずひとつガーデンがある」
それが自分の庭でなくても、もちろん、家の庭でも。家に庭がないひとは、*4 コミュナル・ガーデンがあり、それを持たないひとも、近所の公共のガーデン(ハイドパークやらグリーンパーク)を持っている。田舎に行ったらもっとある。イギリス人はガーデンでできている、のでしたね。
今回の庭めぐり、これまた、夏の風物詩。*5 ピムズといっしょで、しっかり、はまりそうです。来年もお気に入りの庭をさがして、奔走するわたしがいるかも。

<うんちく>
*ハムステッド・ヒース ロンドン北部の広大な庭、というより公園、というより森林!
** Bedford Square 大英博物館にほど近いところにある。
今回の主催、共催団体などのマルキー(テント)で、ガーデンフェアを開催。
家や庭の修復のヒント、子供のアクティビティ、ガーデニングのアドバイスやらをしてくれる。

***ジョージアン様式 イギリス建築物様式。ジョージ王時代(一世から四世までいます。
ちなみに四世は晩年精神病に陥った父王に代わり摂政 Regent を努めていたので、彼の時 
代は特にリージェント時代・様式といわれジョージアンとは区別されてる)の建物様式。
ステッコな、四角のサッシュウインドゥに、扉はジョージアンドアといわれるのが特徴。
ほれ、首相官邸のダウニング街10番地の扉。あれです。
*4 コミュナル・ガーデン 長屋タイプのフラットや集合住宅で、個々の家には庭がなくとも住民が
自由に使える共通の庭がある。

*5 ピムズ 前に紹介したと思いますが、イギリス版サングリア。Pimms No.1 というリキュールを
レモネードで割って、レモン、オレンジ、や、ミント葉、きゅうり!を入れて飲む。

2004年6月26日                         
© Mizuho Kubo , All rights reserved…..June, 2004

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